【嬉野温泉奮闘記】〜西日本新聞 H22年1月5日〜
本文抜粋
江戸時代の天保元年(1830)年以前の創業とされ、嬉野温泉で最古の歴史を持つ老舗旅館「大村屋」。ずっしりと重い看板を背負う15代目は、25歳の北川健太さんだ。
「稼業を継ぐ気は全くありませんでした。むしろ趣味の音楽でたべていきたいという気持ちの方が大きかった」。大学進学で上京し、「給料がいい」との理由で始めたホテル従業員のアルバイトが転機になった。
お客様を迎え入れ、部屋まで案内する間に交わす会話が楽しかった。もともと、人をもてなすのが好きな性格であることに気付いたという。
大学卒業後、静岡県熱海市の高級旅館などで2年間修業した後、2008年10月に先代の祖母に代わって社長に就任した。
まず、常連客の顔と名前を覚えなくてはならなかった。住んでいる地域や食事の好みまで把握しなくてはならない。従業員約20人の中規模旅館では“全員野球”が基本。社長とはいえフロントに立ち、スーツを脱いで風呂掃除をこなす。「お客様からすれば社長も従業員の一人。人と人の距離の近さが感じられるのも嬉野の良さではないでしょうか」
バブル崩壊以降、旅館街は低迷が続くが柔軟な発想で顧客獲得を狙う。温泉街のゴミ拾いをした客の宿泊料を割り引く「一日一善プラン」に、旅館でのプロポーズや誕生日を応援する「記念日応援プラン」・・。特に閑散期の昨年8月に実施した「美肌プール」は好評でぬるめの温度に設定した風呂に水鉄砲や浮輪を浮かべた所前年比1・7倍の来客があった。
嬉野の夜の街にも着目している。「スナックが立ち並び、『寂れている』『昔っぽい』と言われることもあるがキャバクラや居酒屋、カラオケボックスとも違うスナック文化を観光資源として生かせないかと考えています。」昼と夜の顔ががらりと変わる嬉野温泉の魅力をアピールしていきたいという。